にんぎょう
動かなくなった電気スタンド。
まだ部品がカタカタと音を立てているが、先程のような常軌を逸した動きはもうできないようだ。
それよりも私を突き動かした衝動。
「妹が危ない」
直感で感じた。
ドアを開け、廊下に出て妹の部屋へ走る。
家全体が軋み、雷が落ちる時のような空気をつんざく音が廊下を包んでいるようだった。
廊下の明かりが明滅し、すぐそこのはずの妹の部屋が遠く感じる。
ドアを勢いよく開けると、やはり妹の部屋も異常な事態に陥っていた。
動くタンスや机に怯え、部屋の隅にうずくまる妹に声をかける!
「たすけて、お兄ちゃん!人形が…っ!」
指差す先に、妹が大切にしていた人形が立っていた。
明らかにこちらを見ていた。
同じだ。
私の部屋の電気スタンドと同じ。
本来生命を持たないものが持ち得ない『視線』。
投げかけられたそれに、今は物怖じしていられない。
大切な家族が怯えている。
私はそばにあった椅子を掴み、一心に人形に向かった。
何がどうなったかはわからないが、人形はうごかなくなった。
その時、風向きが変わったかのように、一瞬にして我が家を包んでいた悪い気配は消え去った。
(この人形が原因なのか?)
狂ったように蠢いていた家具は、いつものように静かにそこにあるだけ。
窓の外は、いつもの静かな景色。
私の好きな、いつもの景色に戻っていた。
「お兄ちゃんありがとう!怖かった!」
駆け寄る妹と共に、私は床にへたり込んだ。
とんでもない、異常事態だった。
なぜ?と、今の私には考えられなかった。
今更になって頭が痛みだし、ドッと汗が噴き出てきた。
遅れて息が荒くなり、鼓動も早くなった。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
心配そうに見つめてくる妹の言葉に、私はハッとさせられた。
そうだ、まだ安心するのは早い。
階下には母と下の妹がいる。
家の怪現象は治ったが、あの二人が静かなままということは、怪我でもしたのかもしれない。
妹に大丈夫、お前はここでじっとしていなさいと伝え、階下に降りる。
幸運にも、二人は無事だった。
同じように二人で床にへたり込んでいた。
顔には満面の不安が広がっていたが、私の姿を目にして、少し和らいだようだった。
妹も私も無事だと伝え、二人の手を取り抱き起こした時、
電話が鳴った。
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