スタンドが睨む。
当たり前だが、電気スタンドに使う動詞ではない。
私を睨んでいたのはその電気スタンドを突き動かしている”何か”だったのだろう。
明らかな敵意を持った双眸が、私を射抜くような視線を投げかけている。
…と思っていたのはわずかな時間だった。
数瞬ののち、電気スタンドは狂ったように部屋を飛び回った。
舞い上がり、
奇妙な音を立て、
地面に激突する直前にまた舞い上がり、
そして私に突進してきた。
間一髪そのスタンドを避け、自分のベッドに身を投げ出す。
目論見の外れた電気スタンドは、また空中を舞い上がり、狙いを定めているかのようだ。
私の血液が、恐怖と混乱とが入り混じり、頭や手足を掻き乱してくる。
電気スタンドが浮いているだけじゃない。部屋全体が妙な音や動きをしているだけじゃない。
目と耳がふだん通りの役割を果たしてくれず、立っているのがやっとだった。
そんな私のぐちゃぐちゃの身体の中に、一瞬だが強い光が差し込んできた。
妹たちが、
母が危ない。
その光は一瞬で私の血管を通り抜け、ぐちゃぐちゃだった、油だった血に火をつけてくれた。
擬音を使うなら
smaaaaash!
…と言えばいいのだろうか。
気付けば目眩がする視界の中で、ひいお爺さんの電気スタンドは壊れて動かなくなっていた。
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