どこかの動画でも少し話しましたが、私の座右の書にロバート・ヘンライ先生の著書『The Art Spirit』という本があります。
敬愛するラッパー、Rhymesterの宇多丸師匠がラジオでちょっと取り上げていたことがきっかけで手に取りました。
細かい事はここでは省きますが、
クリエイターたらんとする時にブチ当たるであろう様々な窮地・悩みの解決法を、丁寧に暖かく、時に厳しく、しかし主体性を削ぐことなく教えていただける大変有難い名著であります。
ですが!
先生の言葉は深すぎて、凡百の徒たる私にはさらっと読んだだけではなんのことやら…
それではいけないとこちらで考えてみる。
今回のタイトルの意味
気になった一文
p.180の一文が気になった。
私はあるとき、若い画家にこう訊かれた。自分なりの絵のスタイルを貫けば、作品から多少の金を稼ぐことができるだろうか、と。その画家はかなり才能があり、絵に注ぐ情熱もたいしたものだった。だが、彼の作品が世間でもてはやされることはまずないと私にはわかっていた。画家になる前は、トマトの缶詰などのラベルのデザインをして生計を立てていたそうだ。そこで、トマト缶のラベルのデザインを続けて生活費を十分に稼いだうえで、空いた時間に好きな絵を描いたらどうか、と助言した。たまたまその時期には彼の初期の絵が売れはじめていたが、一方、彼自身は自分のおかれている状態に満足がいくとはとてもいえなかった。彼はいまや昔の絵を売って生活し、新しい作品を好きなように描けるようになっていたのだが、それはトマト缶のラベルのデザインをしていたころの状況と何も変わってはいなかった。
本書より抜粋。原文ママ(間違っていたら教えてください)
うんうん、質問した彼の気持ちはめちゃくちゃ分かりみ深い。
「世間に媚びたら芸術とはいえんでしょう!が、果たしてそれで飯食えるんすか?」と、聞きたくなりますよね!
考察
クリエイター・アーティストにとって、「食っていく」という問題は避けて通れません。人間だもの。
前衛的な、これまでにない、商業主義と縁があるかどうか皆目不明な作品を目指す以上、必然ではあります。
近くにヘンライ先生がいたら、私も訊いていたでしょう。
「先生、売れるものをやるべきですか?それとも自分を信じるべきですか?」と。
そこで先生は
「食えるものでまず稼いで、それから好きなことしたら?」
とお答えになった。
うんうん、やはりおまんま食べなくては筆は握れぬ。
でも、その時彼の絵は売れはじめてはいた。だが彼はそれには満足していない。
そこで昔の絵を売って生活し、晴れて好きな絵を描ける暮らしを手に入れた。
めでたしめでたしじゃん?
でも先生から見たら、
「トマト缶のデザインして稼いでいた時と何も変わってないじゃない。」
という風になるらしい。
何がまずいんだ?
前後の文脈
この文の含まれる章は「16 芸術家であること ―手紙による作品評」というくだりであります。
直前の一文は、
「画家」と名乗る以上、純然たる描く自由がそこにあるはずだ。
つまり、絵を描く=画家で生計を立てることはあきらめて、他で生計を立てなくてはならない。
たまたま絵を描きながら優雅に暮らせたとしても、なにかしらの点で、その自由が妨げられるはずだ。
直前の文を勝手に要約スミマセン。
とある。
先生は、
描く事
と
経済性
は完全に別物として考えてらっしゃったようだ。うーむ…
結論
つまり、
「経済性=売れるかどうかを意識して描かねばならん時点で、最初に言っていた『自分のスタイル』とかが崩れてるじゃん。それじゃ最初からセルアウトしてればいいじゃん。」
という事か。
先生なかなかに厳しいお言葉。
あるもの全部うっちゃっても描きたい、表現したいものがあるんだ!
…というモノがあるなら、それを追求しなさい。
追求するために、他で稼いできなさい。
自分の絵で食べていきたいなら、売れる絵を描きなさい。
但しその時に、最初に思っていた自由はもうありませんよ。
ヘンライ先生からすれば、ふたつはトレードオフの関係なのだ。
感想というかケツィというか
クリエイティブのそばにはコーヒーがあった。
私の近しいクリエイティブな人たちを、そっと支えるコーヒーを届けたい。
そしてその為には私自身もクリエイトしていきたい。
こんなスタイルを貫くなら、私はそれ以外で稼いでこないといけないようだ。
※うちのコーヒーはこのリンクからご購入いただけます。
本の紹介
絵を描く人に向けて書かれた本ですが、宇多丸師匠も言っていたように、「絵」の部分を「音楽」や「デザイン」や「建築」や「料理」や「サービス」や「ビジネス」などなど、己のやろうとしている事に置き換えるとすべてに当てはまる気がします。
欧米で80年以上にわたって読み継がれてきたにも関わらず、邦訳されたのがここ最近という本。
今回の例は厳しい感じになっちゃいましたが、全体として見ると「生み出そう」としている人すべてに熱いエールを送ってくれる、背中を押してくれる、そんな印象の本です。
生みの苦しみを味わっているすべての人におすすめできると思います。
written by Tatsuya.F
コメント
[…] スタイルを貫くと稼げるのか […]